「赤いな。」
待ち合わせ場所に早めに着いてしまい、本屋で待つつもりが待ち合わせ相手を見つけてしまった。卒業式に会って以来1か月ぶりの部活の後輩の加奈子。普段はそれほど目立つ格好をする娘ではない印象だったから少し驚いて「久しぶり」の言葉より先に口から出てしまった。
「お元気でしたか?春だし入院中で先生塞ぎこんでるかと思って明るい色にしてしまいました。」
今日は、大学時代のゼミの先生が入院してしまったので一緒にお見舞いにと誘われた。現役の後輩たちやこの春の卒業生数人誘ったようだが、皆用事があり、後で合流することになった。結局俺と加奈子で見舞いの品を見繕うこととなったのだ。
後輩と合流するまで赤スカートの加奈子と一緒に歩くことになるのが少し居心地が悪い。そのスカートは入院中のおじさまには眩し過ぎるのではないだろうか?
俺の彼女は絶対に履かないスカートだ。
心を読んだのか加奈子は聞いてきた。
「佐藤先輩の彼女さんはこういう格好はしませんか?」
「どっちかというと大人しい格好が多いかなぁ。」
「やっぱり大人ですねぇ。」
俺が大人の彼女と付き合っているという噂はゼミにはとっくに広まっていたことだが、「大人しい格好=大人」ではないだろう。大人でも派手な格好している人なんていっぱいいる。そう反論しかけたが面倒なのでやめた。
「あ、これ可愛くないですか?病室に置いたら元気出そう」
「でも邪魔になるよ」
「そうかぁ。難しいですね。お見舞いを選ぶの。」
早く他の奴らが合流してほしかった。赤スカートの加奈子と二人きりなのが落ちつかない。なぜなのか。彼女以外の女の子と二人きりなのが後ろめたいのだろうか。そんなことはないだろう。隣で赤いスカートが揺れるせいだろうか。
そんなこと考えているうちに後輩が2人現れてくれた。
お見舞いを終えて、この後は彼女と待ち合わせだ。
彼女は赤い服など着ない。
黒、紺、グレー。
主な身につけるものの色。
元々の顔立ちが派手なので、化粧が薄くても地味な色の服を着ても顔は目を引く。俺だけが思っているのかも知れないが。
待ち合わせの改札にやって来た彼女は、スーツを着たビジネスマンに同化するように紺色のジャケットとスカートだった。
いつもどおりの彼女にホッとする。
「お疲れ。」
いつもの喫茶店に向いながら尋ねてみる。
「ねぇ、赤い服とかって着ることある?」
「たぶんないかなぁ」
だよねぇ。うん。やっぱりね。
それでこそだよ。
「学生時代とかは着てた?」
「どうかなぁ、着てたかもねぇ」
え?そうなの?意外だなぁ。彼女が赤いスカートを着たら似合いそうだなぁ。華やかな顔だから皆振り返るんじゃないのか?見てみたいなぁ。
「ねぇ、もう着てみたりしないの?」
なるべくさりげなく、控え目のおねだりをしてみる。
彼女はうーんとちょっと考えたフリして言い放った。
「着ないね。」
言うと思ったよ。
学生時代の彼女の隣にいれなかったのが悔しい。
でも、過去に赤いスカートを履いた彼女を見た人がいるんだよねぁ。
ん?彼女はどんな時にそのスカートを履いたんだ?加奈子のようにお見舞いで赤いスカートを履くようなセンスではないはずだ。ならば当時付き合った奴とのデートだろうか。なぜ赤いスカートをその時履く気になったのか。
「どうしたの?」
彼女は何か見透かしたかのように笑みをたたえていた。
「何でもないよ」
気がついていた。当時の彼氏なんかよりも俺は、年上の態度を崩さない彼女に嫉妬するのだ。彼女の年は超えられないわけで、この嫉妬がなくなる日は来るのだろうか。