行け!AI課長! 【第2話】

ダダダダダダダダッ

バンッ!

「セ〜フ!」

息せき切って階段を駆け上がってきて一言めがこれだ。

入社して間もない新人の中田だけがキョトンとしているが、オフィスにいる他の数人の社員はまた始まったかぁといった表情だ。年の若い社員はすでに一度は経験したくだりだ。

「え?課長、何の真似ですか?」

「ハァハァ  …わかんないか〜!そうか〜中田はわからんよなぁ!一昔前は就業時間が学校みたいにきっちり決まってたんだぞー!」

「えー!まじっすか!大人になったら遅刻とは無縁になれると思って生きてきましたよ。ところで課長、地下から7階まで階段で走って上ってきたんすか?汗ハンパないっすよ?」

「健康のために少し運動しないとな ハァ ハァ」

「イヤ、課長『ロボ』なんだから運動必要なくないっすか?」

「何を言う!ロボの俺が運動している姿を見て君たちも、体を動かさないとと思うだろ?共感が組織の絆を強めるんだぞ!しかも『ロボ』って言うなよぉ〜味気ない!」

 

このMASU広告代理店にもロボット課長が就任した。この会社、お世辞にも大企業とは言えない。しかも名前は広告代理店と先代の社長のつけた会社名を継承しているが、やっている中身は何でも屋。常勤20人に満たない少数の社員が自分の得意分野やその時々で興味を持ったことを掘り下げて仕事を作っていく。広告分野やイベントの仕事が多いが、過去には社員やアルバイト含め全員で期間限定で畑仕事をしたりもした。

 

そんな会社のロボット課長は私たち人間と同じようにコミュニケーションをとり、人間と同じように仕事をする。

見た目だって人間と一緒だ。40代中肉中背。あっさり目の顔をしている。ファンがいたら怒られてしまうかもしれないが、星野源に少し似ている。

ただ、この課長、不思議な身体機能が装備されてたりする。

「課長〜汗、めっちゃいい匂い。」

「あ?中田わかる〜?俺って薔薇の香りの汗かいちゃうんだよねぇ〜。あ、夏場は爽やかな柑橘系にするよ?」

「そのプログラム、必要なんすか?汗かかない設定でよくないすか?」

「そんな冷たいこと言うなよ〜、中田〜」

「女性が汗でどれだけ気を使ってるかわかりますか?アイカワ課長」

「お、谷。嫉妬か?」

「いや、違います。」

入社3年目、常に黒い服に身をまとっている谷和子はクールに言い放って仕事に戻った。

「中田ぁ〜、谷が冷たいぃぃ…。」

「アイカワ課長、俺も仕事しますわ。匂いはいいけど暑苦しいんで離れて…。」

「中田までぇ〜…。みんな、仕事はほどほどにな…。仕方ない、俺も仕事するかぁ〜」

「アイカワ課長、仕事前のコーヒー飲みますか?」

クールな谷にしては珍しく笑顔で聞いてきた。

「頼むぅ〜ミルク多めで。 って、俺、ロボットなんだから飲食できんっつの!」

中田は目を見開いてアイカワを見た。

「え〜!汗はかくのに飲食できない設定なの⁈」

「うん。俺バルミューダのトースターみたいにほんの少しのだけの水は受け入れるんだ。あぁ、コーヒーいい香りだなぁ。」

 

この数年で大企業や一部の分野(介護や運送業など)でのロボット雇用はかなり増えてきた。しかし、小規模で雑食的多分野のこの会社でロボット課長を使うことになったのはある種の実験とも言える。社長の知り合いのツテで雇用されたアイカワ イサム。それがこの会社の人口知能搭載のロボット課長の名だ。

アイカワはロボットと言われるのを少し嫌らっている。だから社員もイニシャルを取ってAI課長のアイカワ課長と呼び、そこだけは少し気をつかっている。

 

「アイカワ課長、昨日ありがとうございました。」

中堅社員の小柄な槙本が声をかけてきた。

「おう、気にすんな。いつでも泊まりに来い!」

「え?槙本さん、課長の家泊まったんですか?」

「つい仕事ハマって終電逃して、泊めてもらった。」

「アイカワ課長って、ここの地下っすよね?家(充電ステーション)」

「そうだよ〜」

「え〜アイカワ課長の家興味あるっす。どんな感じっすか?」

「…う〜ん。」

「え?」

中田とアイカワは二人同時に声に出した。

「なんか変だったかぁ?俺の家?」

「いや…。あの、まさか、AI課長が布団で寝てるとは思わなくて…」

「え?布団w?」

「もちろんだろ〜〜〜⁈ヒトの気持ちを知るためには同じ習慣をしないと!」

「しかも、課長、何か可愛らしい柄のパジャマ着てたし…。」

「槙本!それは言うなよぉ〜〜〜///」

聞いていた社員は若干引いていた。

 

何だか無駄そうな設定がたくさん搭載されている、誰よりも人間じみたAI課長の奮闘は続く…。