19の夜

短大時代の一人暮らしは思い出深い。

 

受かるであろうと思っていた大学に落ちてから、親から(美術大学への)浪人禁止令が出され、そこからなんとか入れる短大を探して後期試験を受け、受かった時には時すでに遅し。学校近辺で入れる物件はほとんど埋まってしまっていた。

少し高くつくが、ここならセキュリティーもしっかりしてそうだし、家具家電が備えつけなので新たに物を買い揃えなくていいという理由で親の了承を得られた部屋はなかなか個性的な間取り。ユニットバスにクローゼット。TVに冷蔵庫、電話。机にベット。布団さえあればその日から住めるくらいの設備だ。これだけ聞けばよくある家具備えつけ物件のようだが、間取りを見ていただこう。

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 私はその部屋をペンシルルームと呼んだ。

日当たりは良すぎるほどで、夏場は大変だった。

そして、短大の友人逹は夜な夜な一人暮らしの子の部屋に集まり飲んで食べて、いろんな事を語りあったのだが、我が家に集まった時は備えつけの家具のせいでみんな横一列に座るしかなかった。食べ物も飲み物も順番に横にまわしていく。ちょっと不思議な光景だった。1年も経った頃、備えつけの家具のせいで狭い部屋をなんとかしようと、ベットを無理やり立てにしてスペースを作ったり、ベットの上に机を乗せたりと模様替えを試行錯誤した。 

セキュリティーが割としっかりしていたと冒頭に述べたが、玄関は半オートロックだった。半オートロックはどういうことかというと、住人は入る際に暗証番号を入力して解除し入る。誰かお客さんが来た場合には、インターホンで連絡を受けることができるが、下の玄関まで行き自動ドアを解除させなければいけなかった。ちょっと面倒なシステムだった。

 

ある夜、友人の一人から、「今下にいるのだが、玄関に来てほしい」とインターホンで連絡があった。インターホンの向こうに何人かいる気配を感じたが、特に気にせず下へ降りていった。

自動ドアの向こうで友人たち5人…なぜかみんな後ろを向いていた。

 

どうしたのかと思いながらドアを解除した途端、振り向いた友人たちの顔は皆、ガングロメイクが施されていた。そして『モーニング娘。』のLOVEマシーンを歌い、踊り狂い出した。マンンションのロビーは彼女達のステージと化した。

普段はそんなガングロメイクをする娘たちではなかっただけに私の腹はよじれた。

しかも今のようにハロウィンなどで仮装する習慣もなかった時代に彼女達はその格好でコンビニに立ち寄ってから来たらしい。

みんな実家から離れて、親の目の届かないところで生活を始め、学生生活と一人暮らしの自由を謳歌していたが故の出来事。

一人暮らしを始めた学生時代、盗んだバイクで走り出した友人はいなかったが、ガングロメイクで踊りだす友人たちと出会えたことは奇跡と言っていいだろう。 

現在はこの物件、高齢者向けの住宅となっているらしい。その話を聞いた時、このペンシルマンションで踊り狂うおじいさんおばあさんがいたらいいなと思った。