行け!AI課長! 【第3話】

「まさかこんなに乗るはずの飛行機が遅れるなんてなぁ」

ようやく飛び立った機内で中田は思った。今日はAI課長と初めての出張だ。

課長は人と寸分違わない見た目のロボットなので座席を一つ取るのか?とも思ったが、違った。空港のカウンターまで一緒に来てアイカワ課長はおもむろに大きなバックを取り出し自分でガサゴソと入り込んだ。

「中田。じゃあ、また到着後にな!受け取りよろしくっ!」

 

こんなに時間が経ってしまってアイカワ課長は大丈夫だろうか。ロボットなんだから暑さ寒さも実際は感じないだろうし、電源もOFFにしたから何も問題はないのに人型のせいなのか、つい心配してしまう。遠隔地との会議などはWeb会議でできるが、今回の出張目的は「中小企業における人型ロボットの活用実例」の講演であり、まさにAI課長が主役なのだが、その主役は機内の貨物室コンテナ内でバックにすっぽり収まり体育座りしているなんて。

さて、今回の講演依頼から察することができるだろうが、まだまだ一般企業での人型ロボットの導入率は低い。

昔、人がAIに仕事を奪われると騒がれた名残だろうか。2020年代いわゆる機械的なAIの導入により、雇用は減った。しかし人口減少の問題を抱えた日本にはAIの活用は必要なものだったし、BI(ベーシックインカム)の導入と共にさほど大きな反発もなくAIの活用は進んだ。しかし、これが人型となると、多くの反発があり、ロボット法の整備など多大な時間と要し、未だに浸透していない。

 

 

実際にアイカワ課長の元で働いてみて、人型ロボット故に響く事もあるのだ。

「やる気が出ない時は出勤しなくてOKだよ。もちろんその場合は給料は下がるけど。」

「この会社じゃ出来ないことがあるなら他所の会社に行ってもいいよ。」

人に言われるとカチンときてしまいそうな冷たい言葉のようだが、うちの会社はこんな言葉通りの合理的な勤務体制だし、方針なのだ。だからこそ生産性も上がってるわけだし、パワハラでもなんでもない。

その反面

「何かわくわくしたくてこの会社にいるんだろう?ロボットの俺にはわからないけど」

なんて、哀愁のこもったことを言ったりもする。

 

もちろん24時間(充電時間を除くが)働いて人間の仕事のカバーをしてくれている。

 

機内で斜め後ろの席に座っている子供はずっと小型のネコ型ロボット「キティーさん」と遊んでいる。

ロボットと人間はこんなにも身近になったのに、もっと世間は人型ロボットの効果を認めるべきだ。今回の講演でも実際にアイカワ課長と触れ合ってもらって、人型ロボットが普及してくれればいい。

 

ようやく飛行機は到着し、アイカワの入ったカバンが流れてきてベルトコンベアから降ろした。

「電源は入ってないけど、開けるのにノックとかした方がいいのかな?wアイカワ課長~、失礼しま~す!」

ジャーッ

 

「!課長がいない

 

カバンの中にはアイカワのスーツだけが抜け殻のように入っていた。

盗まれたか?そうだ。よく考えたら、人型ロボットをこんな預け荷物にするのが間違ってたんじゃ?頭は真っ白になった。

 

 

「おーい、中田~!」

「?アイカワ課長?」

振り返るとそこにはアロハシャツにハーフパンツ姿のアイカワがいた。

「いや~念のため自動起動設定にしたら、何これ。出発すごい遅れたんだね~。スーツ姿でずっと体育座りでいるの辛くて着替えちゃった

 

中田は「何でロボットで同じ姿勢でずっといるのが辛いんだよ」と言いたいのを堪えた。そして、人型ロボットはいいとして、アイカワは特殊プログラム過ぎるのでは?と講演が心配になってきた。そんな心配をよそに、アイカワは

「帰りにカニ食べて帰ろうなぁ~、俺食えないけど!笑」

 などと言っている。

 

AI課長との出張は始まったばかりだ。

続く。