嵐の日の話

発達した低気圧の影響により北海道は春の嵐、真っ只中です。ますです。

気象台は不要不急の外出を控えるよう警戒を呼びかけていて、学校は休校となったところもある。

 

春の嵐ではないのだが、あれは10年以上も前。街路樹が暴風で次々なぎ倒されたほどの嵐の日のことを話したい。

 

その当時病院で事務職をしていたのだが、いつも患者さんでごった返している待合室も、その日ばかりはほんの5〜6人しかいなかった。来た患者さんは先生が診察をしていたが、そのうち院内は停電となった。自家発電的な機能により真っ暗というわけでもなかったし、今のように電子カルテもなく、昔ながらの紙のカルテに医者はミミズのような謎の暗号を記入し、それをスタッフは解読していた。だから、医者が患者を診る分には支障もあまりなかったのだが、診察を終えて薬を出しますという段階になり問題が発生した。

どうも薬を作る機械が停電で動かなくなったらしい。仕方がないので患者さんには事情を説明して、それでも先生に診るだけ診て欲しいという患者さんだけには残ってもらい、投薬希望の患者さんには帰ってもらうこととなった。

患者もほとんど来なくなった頃、1人のおばあさんがヨロヨロと杖をついて院内に入ってきた。

「診察ですか?(薬が必要ならば帰ってもらおう)」

そう聞くと耳を疑う返事が返ってきた。

 

「リハビリをしに来ました。」

 

この嵐の中、リハビリをしに来たのだ。律儀というか、、、。でも待てよ、リハビリ室は3階。停電でエレベーターも止まっている。そのことを伝えて帰ってもらおう。説明すると、さらに驚きの答えが返ってきた。

 

「歩いてリハビリ室まで行きます」

 

この嵐の中わざわざ来て、さらにリハビリ室まで階段を昇って歩いていく気だ。もう、リハビリの必要などないのではなかろうか?

おばあさんは言った

 

「歩いて、リハビリのおかげでこんなに歩けるようになりましたと報告しに行きます」

 

おばあさんはリハビリの先生に成果を見せるために来たのだ。先生にスタッフに感謝を伝えるために。

 

もちろんみなさん嵐の時は不要不急の外出は控えて欲しい。ただ外出うんぬんではなく、嵐の日は「自分も頑張らないとな」と、あのおばあさんの事を思い出す。